子ども・若者支援に思うことコラム

『心理的虐待を受けた子ども一人ひとりが全面肯定される体験を』
子育て世帯訪問支援事業の中で、外遊び・学習支援等の回復プログラム実施を

更新:2026年8月11日 寺出壽美子

 虐待通告件数で最も多いのは心理的虐待で、2023年には13万件を超えている。しかしながら、その他の身体的虐待・ネグレクト・性虐待と比較して、心理的虐待で被害を受けた子ども対しては、どこの管轄部署が回復支援を実施しているのか。現在、回復支援を実施している自治体が既に存在しているのであれば、その成果や実情を伺いたい。
 この数年、女子のメンタルヘルス(心の健康)が世界的に悪化して、日本でも女子の自殺者数が男子の自殺者数を初めて上回り、昨年の小中高生自殺者数は538名と過去最高を更新した。
 出産後の母親のメンタルヘルスの不調が増加している現状を見ると、頷ける結果ではある。母親自身の子ども時代にその前の世代の母親から心理的虐待を受けた影響により、今度は出産後に心の不調が生じる世代間連鎖である。
 2023年の国立成育医療センターの全国調査では、調査の1週間に「死にたいと思った」「自傷行為をした」と答えた小学5・6年生が20%近くに上ったこととも呼応している。生まれた時からずっと、「可愛くない子だね!」「産まなければよかった!」等の言葉の暴力に晒され続けた結果、小学高学年になる頃には生きる意欲が失せてしまい、自傷行為の時にのみ唯一生きている感覚を呼び覚ましている子どもが増えているのではないか。思春期に入ってからはオーバードーズが増加しており、10代の自殺未遂者の調査では未遂者の76%が死にたい気持ちを誰にも話したことがなく、死にたい理由も不明確や曖昧が最多であったという。
 親は不安な気分になるとその時々の愚痴を子どもに吐き出しているが、言い放ってしまえば気持ちが収まり忘れてしまうために、子どもに対して酷い内容を浴びせたという自覚もないままに繰り返してしまう。言葉の暴力は、外部の傷としては何も残らないために軽く見過ごされてしまうが、場合によっては、身体的虐待よりも一生消えない傷として脳に刻まれてしまう。
 一般的に心理的虐待を受けた子どもは、愛着障害・自傷行為・他者への攻撃性・未来への希望が持てない・非行に走る・鬱になる・複雑性PTSD等、様々な症状を呈する。様々な症状が出てくるにも関わらず、現在は心理的虐待の被害児へのケアは見過ごされている。
 心理的虐待の通告件数が13万件あるということは、10数万人の子どもが放置されているわけで、今後は通告された子どもたちに対しては心理的回復プログラムを早急に開始しなければ、自殺者数を減少させることは困難である。
 2023年に元大正大学の西郷先生と子育て世帯訪問支援事業(養育支援訪問事業)の全国調査を実施してみた結果、子育て世帯訪問支援事業を実施していない自治体が22%もあった。また、乳児の死亡率を引き下げる目的で乳(幼)児への支援は一定数確保されていたが、小学生以上への訪問支援は全国的に多くない。
 今後、心理的虐待通告を受けた子どもを子育て世帯訪問支援事業の支援対象に入れるとするならば、小・中学生の増加の分、支援対象数は増加する。さらに、不安定な母親のもとで育つ子どもは当然に不安定になっていることから、子どもの心の回復プログラムとして、外遊びや学習支援、様々なゲームや遊び、おしゃべり等、それぞれの子どもの気持ちが安定するプログラムを家庭で週1回は実施することが肝要である。
 年齢が高ければ居場所を用意しているから家庭訪問まではしなくてもいいと考えるかもしれないが、死にたい感覚を持った子どもは外に出るエネルギーを枯渇させているので、先ずは家庭訪問した大人との信頼関係を築くことから開始しなければ外出もままならず、信頼関係を築いた大人とは出掛けることができるので、外出に誘う為にも先ずは家庭訪問から始める必要がある。
 しかも、子ども時代は不幸だったけれど、大人になって幸せになったからよかったと、考える人もいるかもしれないが、子ども時代のうちに心の回復を済ませておかなければ、成人後、亡くなるまで不遇な人生を歩むことになってしまうという調査研究がある。子ども時代に身体的にも心理的にも不適切な養育を受けずに成長することが如何に大切なことであるかがよくわかる。他方で、心理的虐待を受けた子どもであっても、親ではない大人との出会いがあり、その大人から全面肯定された、無条件に受けとめられる体験をした子どもは心の回復が成就される。人は人の温もりによって生きる力を獲得していくことができるので、心理的虐待を受けた子どもには子ども時代のうちに回復プログラムを実施して心の回復をすませておくことが、一人ひとりの人生を考える上でどれだけ重要なことか計り知れない。
心理的虐待を受けた子どもへの回復プログラムの実施は急務である。