子ども・若者支援に思うことコラム

『子どもの自殺者急増で、心理的虐待の子どもへの早急な対策を』
小中高生年齢まで訪問を可能にするために、自治体は本気で大幅な予算計上を

更新:2025年12月20日 寺出壽美子

 大人の自殺者が減少している中で、子どもの自殺者は増加しています。2020年、小中高生の自殺者は479人でしたが、4年後の昨年は50人増えて529人に達しました。中でも、中高生女子は2018年までの5年間で倍近くに跳ね上がっています。SNSで傷つく女子が急増していると言われ、けれども誰にも発信せず当日まで通学しながら自死する女子が増えているそうです。また2023年度には、調査の1週間に「死にたいと思った」「自傷行為をした」小学5・6年生が20%近くにのぼったと発表されました。さらに問題なのは、わが子の苦しさに気づけていない親が多いことです。経済状況の悪化が背景にありますが、それ以上に親も仕事上の人間関係や夫婦関係等、関係性での苦しさを抱えていて、子どもがどんな状態にあるかなど、知る由もないのです。親自身がストレスを抱えているため、時には子どもに八つ当たりで怒りを表出することもあり、親から子への無自覚な言葉の暴力(心理的虐待)が子どもに及ぼすダメージは大きいと推測しています。
 今年5月に立て続けに起きた事件―25歳男性は虐待を受けて性格が歪んだと高1女子を殺害、28歳男性は全てが嫌になったと小学生を轢く、43歳男性は教育虐待を受けると犯罪者になると地下鉄東大前で刺す、高校2年の男子は祖父母と両親の口論が嫌だと祖父を殺害、中学3年男子は複雑な家庭から逃れたいと高齢女性を殺害、と、精神的に追い詰められて他害行動に走る事件が頻出しました。一方、子ども時代に心理的虐待を受けた不安定な女性は出産後、今度はわが子に対して心理的虐待を繰り返す世代間連鎖が顕著になっており、自傷他害は増加の一途です。
 子ども時代に心理的虐待を受けて何のケアもされずに成人しているケースにもっと着目したいと思います。身体的虐待・心理的虐待・ネグレクト・性虐待等の児童虐待の中で最も件数が多いのは心理的虐待です。2023年全国での通告件数は13万件でした。児童相談所は、緊急度の高いネグレクト・身体的虐待・性虐待対応で日々、追われています。従って、心理的虐待の親への指導は児相ではなく保健師が主に担っています。問題であると思うのは、親への指導が実施されていても、被害を受けた子どもに対してのケア、即ち子どもへの回復プログラムは全国的に実施されていないことです。心理的虐待被害を受けた子どもは子どもによって様々ですが、愛着障害・自傷行為・攻撃性・未来への希望が持てない・非行・鬱・複雑性PTSD等の症状を呈しつつ、不安と孤独の状態に放置されているのです。放置されたまま成人していく為に、ある子どもは10代のうちに自傷行為やOD、薬物、ギャンブルの道に入り、ある子どもは少年事件を起こし、ある子どもは自殺未遂を繰り返し、そしてある子どもは自死に向かうのです。
 不安と孤独の渦中で生きる意欲を喪失している子どもに対しては、生きていくことを全面肯定してくれる大人との出会いが必要です。それも1回限りではなく繰り返し関わってくれる大人との出会いが求められます。例えば週1回支援員が訪問を開始すると、訪問日を子どもは心待ちにしています。人は人の温もりによって癒されていくのです。
 ソーシャルワーカーとしての私の約35年の歳月の中で、「苦しい子ども時代だったけれど、私は○○さんとの出会いがあったので、今、落ち着いた生活を送ることが出来ています」という話を沢山聴いてきました。そこに登場する人物は、近所のおばさん、近くのお店のお姉さん、時々泊りに行くおばあさんと多様ですが、彼らに共通しているのは、どんな状況であろうともその子どもを全面肯定してくれていることです。残念ながら、地域の崩壊、核家族化の進行の中で、そのような大人との出会いが現在は激減しています。代わりに自治体から派遣する家庭訪問支援員がその役割を担ってくれています。
 元大正大学の西郷先生と共同で実施した2021年度[東京都全自治体]と、2023年度[全国調査]の養育支援訪問事業調査で、私はそれぞれ10箇所の先駆的な自治体へのヒアリング調査を実施した結果、「数年間、訪問支援員が継続して子どもと関わると子どもたちは心の安定や通学等社会生活に大幅な改善が認められたこと」を報告することが出来ました。
 それにも関わらず、現在の「子育て世帯訪問支援事業(2024年から養育支援訪問事業の名称が変わる)」においての対象年齢は概ね0歳、もしくは幼児までで終了していて、心理的虐待通告を受けた小中高生は殆ど対象になっていません。一方で、国は自死に向かう子どもの激増に、どうしたものかと手をこまねいています。
 全国の自治体職員は不安定な母親の激増の中で、訪問支援員が家事・育児を担うことには熱心に対応してくれています。今後は、親と一緒に生活している子どもの心の状態にも着目して、訪問支援員が意識して子どもと関わり子どもの心の回復を図る支援へと転換させていくことと、対象年齢を乳児、幼児で終了させることなく、大幅に予算を計上して小中高生年齢、即ち18歳未満までの訪問支援を本気で実現させることとで、心理的虐待の被害者である子どもが子ども時代のうちに心の回復を実現させ生きるエネルギーを取り戻してほしいと考えています。プログラムとしては家事支援だけでなく、遊ぶというプログラムも積極的に取り入れて、特に外遊びは過去の経験から絶大な効果があります。
 今日、小学生の不登校児数や暴力事案が増加しています。少年事件も微増しています。いじめの実数は不明のままですがSNSを通して激増中であり、さらに女子高生の自死も激増しています。一刻の猶予も許されない事態になっています。