子ども・若者支援に思うことコラム

厚労省・内閣府に子育て世帯訪問支援事業の実施に関する緊急要望書を提出

更新:2022年10月19日 寺出壽美子

 2022年10月19日、NPO法人バディーチーム岡田さん、濱田さん・NPO法人ホームスタート・ジャパン森田さん・西郷先生とご一緒に、厚労省の担当官に、2024年開始の「子育て世帯訪問支援事業」の実施に関する緊急要望書を提出して来ました。
 昨年度、西郷先生と2人で調査研究した「養育支援訪問事業の育児・家事援助」は現在、前倒しで実施されている「子育て世帯訪問支援事業」の先行事業にあたります。
 「養育支援訪問事業の育児・家事援助」の調査の結果からは、様々な課題が見えてきました。
 特に今まで実施して来たリスクの高い家庭への「養育支援訪問事業の育児・家事援助」は、不適切な養育下に置かれた子どもへの支援としては日常生活の最低レベルを確保し、その上で、訪問支援員との関わりを通して子どもの精神的回復を保障するという観点から必須の事業でした。
 新たな「子育て世帯訪問支援事業」では、リスクの高い家庭の費用負担が免除されるのか、1年以上の必要な支援期間を継続してくれるのか、多岐にわたる支援内容が保障されるのか等、そして、現在も不足している訪問支援員の数の確保と質の向上、コーディネーターへの研修の導入等の課題に対して自治体がどこまで本腰を入れて関与してくれるのか、実現に向けて期待したいと思っています。
 そして、訪問支援員との関わりによって子ども自身の精神的回復が保障されるという最も大切な目的が、この新たな「子育て世帯訪問支援事業」の基盤に置かれているかが、今、問われていると考えます。
 新たな「子育て世帯訪問支援事業」の実施に先立って、以下に要望する内容を掲載致しました。ご検討、ご意見を賜れば嬉しいです。


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令和4年10月19日

厚生労働大臣    加藤 勝信 様
内閣府特命担当大臣 小倉 正將 様

子育て世帯訪問支援事業の実施に関する緊急要望書

特定非営利活動法人 バディチーム
理事長 岡田 妙子

特定非営利活動法人 ホームスタート・ジャパン
代表理事 森田 圭子

特定非営利活動法人 日本子どもソーシャルワーク協会
理事長 寺出 壽美子

子育て世帯訪問支援事業は、令和6年度の本格実施に向けて、現在前倒しで実施されています。支援が必要な家庭に支援をより広範囲に提供する施策であり、期待が高まっています。
しかし、一方で本事業の先行事業である、養育支援訪問事業による育児・家事援助は、利用家庭のニーズを踏まえ、多様に実施され、訪問支援者も多様・多彩でしたが、本事業ではこの多様性が保障されない可能性があります。また、これまでの育児・家事援助の実施状況を見ると質の高い支援を提供する観点からは、課題も少なくありません。
つきましては、下記のとおり事項をまとめましたので、これらの実現に向け緊急に要望します。


1 利用家庭のニーズに応じた、多様で柔軟な制度運用ができるようにしてください。
@ 訪問対象を、産前から18歳未満の子どもがいる家庭としてください。(特例として18歳以上も支援可能としてください)
A 利用家庭の状況に応じ、主に一次予防の観点から実施されてきた、保護者の心の安定に焦点を当てた、敷居の低い傾聴と家事・育児協働による無償ボランティアの支援 から、保護者や子どもの生活の安定に焦点を当てた家事・育児の軽減、そして子どもの精神的安定を目的とした保護者不在時の訪問支援等のための有償ワーカーの支援まで、これまで養育支援訪問事業で実施されてきた、各家庭のニーズにきめ細やかに対応できる支援内容・方法が、継続・発展できるようにしてください。
B リスクが高い家庭や、支援が必要な家庭については自己負担金を免除するなど、自己負担金が支援の必要な家庭の利用の障害にならないようにしてください。
C リスクの高い家庭には、家庭のニーズに応じて1年以上の長期間の支援も可能となるようにしてください。
D 送迎(登校や登園、通級クラスへの送迎等)や受診などの際の同行、そして学習支援など、家庭のニーズに合わせた支援ができるよう、支援内容を限定しないでください。

2 本事業において、支援対象家庭の保護者や子どもとのエンゲージメントから支援の調整などを行うコーディネイター(以下、訪問支援コーディネイターと略す)は、質の高い支援のための要です。事業受託者側の支援の要である訪問支援コーディネイターや、事務局スタッフの賃金等(運営管理に係る固定費)の手当をしてください。

3 家庭生活支援員(以下支援員と略す)などの研修に力をいれてください。
@ 支援員の研修内容の向上と、研修の実施は自治体が保障(委託含む)するようにしてください。
A 訪問支援コーディネイターの研修制度を創設してください。

4 支援の開始から終了まで、親の意見・意向だけではなく、子どもの意見・意向を聴き、子どもの最善の利益を考慮し支援内容や期間を決める制度にしてください。

5 個別ケース検討会議に受託団体の訪問支援コーディネイターが参加したり、都道府県・市町村行政が支援員の募集に協力したりするなど、官民の協働実践を基本にした積極的・発展的な制度運営をお願いします。

6 先行事業の養育支援訪問事業は、量・支援内容とも自治体間格差が極端に拡大していることから、好事例・先駆的事例の共有や、全国的な研修の実施など、底上げ策を取ってください。

現行の養育支援訪問事業実施要綱4−(1)―アには、 「妊娠や子育てに不安を持ち、支援を希望する家庭。」、4-(1)-オには、支援の対象として「公的な支援につながっていない児童(乳幼児健康診査等の谷間にある 児童、3歳〜5歳児で保育所、幼稚園等に通っていない児童)のいる支援を必要とする家庭。」とあります。これらの対象への支援については「例えば、現在、一部の市町村や民間団体において実施している、いわゆる『ホームスタート(注)事業』等の独自の取組などは、今回の支援対象の明確化に伴う家庭への支援に取り組んでいると考えられるため、積極的に活用されたい。」(平成28年度全国主管課長会議説明資料15ページ)と説明されるなど、予防的な支援について、これまでホームスタート等の民間団体の活用を国としても促して来ています。

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