子ども・若者支援に思うことコラム

2021年度東京都養育支援訪問事業の育児・家事援助調査研究報告書から見えてきたこと
〜不適切な養育下の子どもたちの精神的回復を保障していく取り組みとは〜

更新:2022年5月9日 寺出壽美子

 昨年1年間、東京都養育支援訪問事業の育児・家事援助の調査研究を実施した目的は、児童虐待の件数が毎年増加する中で、被害を受けた子どもがその後、虐待からの精神的回復を果たしているか、果たせずにその後の子ども時代を送っているのかを検証してみたいと考えたからです。
 緊急を要すると判断された児童虐待は児童相談所が親子分離しますが、残りの大多数の子どもは親子分離せずに同じ家族と生活を共にしていきます。これらの子どもたちへの支援が厚生労働省の養育支援訪問事業であり、中でも注目しているのが育児・家事援助です。育児・家事援助によってその場の子どもが救われることは大事なことです。けれども、さらに大事なことは、育児・家事援助を通して支援者が子どもと関わり続けることで虐待被害を受けた子どもの癒しが進み、やがて精神的回復に子どもがたどり着いてくれることです。虐待という言葉はインパクトがありますが、この事業の真のねらいは不適切な養育下にある子どもの精神的回復を親ではない誰かが引き受けて回復を進めて行くところにあります。
 厚生労働省の養育支援訪問事業では、不適切な養育状態にある家庭への支援は「中期支援型による支援を想定しており、この場合、6か月から1年程度の中期的目標を設定した上で……、目標の達成状況や養育環境の変化などを見極めながら支援内容の見直しを行っていくものとする。」とガイドラインに書いてあります。
 即ち、厚生労働省は不適切な養育を受けていた子どもの回復には最低6か月〜1年間は支援を必要とするだろうと想定しています。長年、事業を担当してきたある自治体職員は「子どもの精神的回復には概ね2年は掛かっていると思います。」と、話してくれました。しかしながら今回の調査結果では、3か月未満で終了する自治体が21%もあり、1年未満で終了の自治体が51%と過半数を超えていることが判明しました。
 昨年の東京都全自治体を対象に養育支援訪問事業の育児・家事援助の実態をアンケート調査した中で育児・家事援助を積極的に実施している自治体8か所に対して成功事例をインタビュー調査した結果、8年間・9年間という長期の事例について話を聴くことが出来ました。恐らく5年以上も継続してひとりの子どもに関わり続ける自治体は殆ど稀有な例だと推測されます。消えかかった蝋燭の灯のごとく子どもの回復まで支援し続けているほんの僅かな自治体に対して敬意と感動の気持ちで聴かせてもらいました。小学生当時、厳しい状態にいた親子のある事例では、殆ど回復すら危ぶまれると思われましたが、継続して支え続けてくれたお陰で、やがて毎日高校生活が送れるまでに精神的回復を遂げられていました。インタビュー調査で5年以上継続した5事例からは、不適切な養育を受けた子どもが精神的回復にたどり着くには、ひとりか少人数の同じ支援者が子どもと真摯に長期間受けとめの姿勢で関わり続けることが最も重要なことであると、学ぶことが出来ました。
 一方で、年間2か月、3か月の訪問支援で終了している21%の自治体は不適切な養育下の子どもたちの精神的回復に殆ど寄与出来ていないという事実をどのように捉えているのかは不明でした。
 不適切な養育下で育っている子どもは自ら生活している家庭や親子関係を不適切だとは理解出来ませんし、逃げ出すことも出来ませんし、声を上げることも出来ません。これらの子どもたちは早くから「生まれて来なければよかった」との思いを抱き、自己肯定感は育まれず、死を身近なものと認識して、空虚感・浮遊感の中で生きています。10代・20代の自殺率の高さ(G7の中で若者の死因の1位が自殺なのは日本だけ)や不登校ひきこもり人数の多さ、いじめの多さに繋がっています。思春期以降もお酒・薬物、ギャンブル嗜癖へと繋がっていきます。子ども時代に不適切な養育を受けることは子ども自身の責任ではないにもかかわらず、被害を受けた子どもの精神的回復を放置したままでいるこの現状を先ずは認識すること、次に施策を検討して予算計上に繋げて行くことが、今、求められています。
 私は19年間、養育支援訪問事業の育児・家事援助の事業所として訪問支援者の子どもへの関わり方の重要性・自治体との協働のあり方・研修実施の少なさ・研修内容の貧しさ・予算の少なさ(年間予算が1自治体最低3万7千円。最高892万円。必ずしも人口規模に比例せず。予算規模の大きい自治体はごく僅か)をずっと考えて来ました。他県から研修依頼を受けて養育支援訪問事業について話に行く機会がある時は、逆にその地域の養育支援訪問事業の特色・問題点を学ばせて貰って来ました。
 今回調査した東京都の自治体職員のほぼ100%の方が養育支援訪問事業の育児・家事援助は不適切養育下の子どもたちにとって極めて有効な事業であると回答しています。しかしながら、同じ自治体のこの事業に携わっていない職員からは全く理解・評価されていないというギャップを感じます。極めて有効な事業であるにもかかわらず、外部からこの事業が理解されづらいという問題が根底に潜んでいるように思います。
 訪問支援者の不足の問題については、厚生労働省や東京都の本事業担当者の中に未だこの事業の重要性を理解していない方が存在していることも1因ではないかと推測しています。もしご理解いただければ、東京都や厚生労働省が予算を獲得して訪問支援者(コーディネーター・自治体職員も)へ内容のある研修企画を大規模に立て、資格付与等することで解消されていくのではないでしょうか。
 是非、厚生労働省・東京都はともに日本の子どもたちの成人後の人生を考えて、養育支援訪問事業の育児・家事援助の今日の課題と改善に向けてさらに熱心に取り組んで行かれることを願っています。

 「東京都における養育支援訪問事業の改善課題に関する調査研究」は、こちら