子ども・若者支援に思うことコラム

児童虐待による被害児を未然に防ぐために
―2019.5.21 朝日新聞インタビュー記事を読んで―

更新:2019年06月7日 寺出壽美子

 昨年3月に香川県から東京都目黒区に転居してきた5歳の船戸結愛ちゃんが、そして今年1月に千葉県野田市の小学4年生の栗原心愛ちゃんが、相次いで亡くなりました。さらに毎年数十人の子どもたちが児童虐待で命を落としています。その度に、どうしたら防げるかという議論やさまざまな提案がなされて来ていますが、一向に減少していないところに解決の難しさが潜んでいると感じています。
 私は2000年初めに養育支援訪問事業の有効さを実感して、東京都と神奈川県と埼玉県の全自治体にアンケート調査を実施(2005年)したことがあります。当時は、まだ養育支援訪問事業を実施している自治体はほんの僅か(東京都で3自治体、神奈川県で2自治体)でした。ところが現在は、日本全国多数の自治体が厚生労働省の調査では実施していると答えています。多数の自治体が実施しているこの事業がそれでは果たして有効に機能しているでしょうか。中身のある養育支援訪問事業でなければ、内実を伴った児童虐待の予防策とはなりませんので、私は今年度、現在各自治体で実施している養育支援訪問事業の実態を調査してみたいと考えています。
 先月5月21日の朝日新聞に、香川県で船戸結愛ちゃんを担当していた主治医の木下あゆみ医師のインタビュー記事が掲載されていました。確か結愛ちゃんは2回の一時保護並びに病院からの通告もあったと記憶しています。木下医師は結愛ちゃんを被虐待児ととらえていて、週に1〜2回診ることで結愛ちゃんを隙間に落とさないようにとネットを張っていたと話しています。「引っ越し先が決まったら東京の病院を紹介するから連絡してね・・」と木下医師は母親に伝えていますが、引っ越し先を教えてもらえないまま転居してしまったそうです。香川県では、病院だけでなく児相、市、警察が関わっていたとのことです。転居に関して、要保護児童の追跡はどこの部署が担当なのでしょうか。
 私どもの協会では養育支援訪問事業を世田谷区から委託を受けて2003年から実施しています。要保護児童の家庭の引っ越しに際して世田谷区は例えば近県の自治体への転居の場合には、ケースカンファレンスを児相や世田谷区の子ども家庭支援センターの職員、保健師だけでなく、学校や家庭で支援に入っている業者(当協会)までも出席して、転居先の児相や自治体職員、保健師、学校と打ち合わせをしています。勿論、遠い地域への転居の場合はカンファレンス開催までは実施していないかもしれませんが、要保護度の高さに応じて担当者同士での打ち合わせを緊密に実施しているのではないかと推測しています。ということは、要保護世帯の転居の際には転居前の地域から転居後の自治体の児相から児相への引き継ぎ、子ども家庭支援センターから子ども家庭支援センターへの引き継ぎ、保健師から保健師への引き継ぎと3か所の部署の引き継ぎは必須ではないかと考えています。これらの部署同士の引き継ぎが、結愛ちゃんの時に漏れてしまっていたとしたら本当に残念です。残念としか言いようがありません。木下医師がこれだけ熱心に関わっていらした訳ですから、児相は勿論、子ども家庭支援センターや保健師の何処かが新住所を東京の医療機関に繋げようと考えている木下医師に伝えなければと思います。
 どれだけ新しい制度を作ったとしても人員をふやしたとしても、児童虐待の被害児を極力抑えようという意志と熱意を持った職員が担当しなければ何回でも同じことは繰り返されるでしょう。
 実際、児童虐待予防の前方部隊は児相ではなく子ども家庭支援センターです。緊急を要して子どもの安全を確保しなければならない時の緊急対応は児相ですが、これからは、前方部隊である子ども家庭支援センターが子ども家庭支援センターの立場で児童虐待予防を担っていくための施策を各自治体が真剣に検討して、決定した施策を漏らすことなく実行して行ってほしいと切に願っています。